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2011/09/23

5. 日本の進むべき道 -小さな政府か、大きな政府か -

4) 大きな政府、北欧諸国の実態
4-2) 北欧諸国の経済
3) 手厚い福祉政策
③雇用対策
米国は市場原理主義であり労働者流動性が高いために、米国企業は世界で最も容易に従業員を解雇することができりるが、意外なことに北欧諸国、その中でもデンマークでは、日本と比べても企業は2倍くらい容易に解雇できることが、OECDによる各国における雇用保護規制の強さの比較から明らかにされています。それにもかかわらず、デンマークの失業率は3%を切るほどの低水準に抑えられています(独立行政法人労働政策・研修機構:海外労働情報 デンマーク2006年4月)。それはどうしたことによるものでしょうか。

デンマークは解雇された労働者に対して、OECD諸国の中でも手厚い失業保険を支給しているのです。また、「積極的な労働市場プログラム」により、失業者の労働スキルアップに努めているのです。こうした施策により、労働者は解雇を恐れることはなく、デンマークの雇用保護規制が弱くても不満がでない状況にあるのです。
失業手当は、OECD(2004年)による失業手当の国際比較によれば、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの3ケ国は離職前の所得の約70%の給付、特にデンマークでは約80%の給付を受けているのです。これに対して、日本では最高額は日給7,000円であり、これは離職前の所得に対しては、ほぼ60%未満に当たり、北欧諸国よりも低いことがわかります。
失業保険の給付期間であるが、デンマークでは給付期間は4年と日本では考えられないほど長いのが特徴です。スウェーデンでは失業当初の80%から40週後には70%へ、60週後には65%へと減額しています。このような施策と並行して、低所得者を対象に減税を行い、失業給付よりも税引き後所得が高くなるように誘導しているのです。
政府の就業支援としては、デンマークとスウェーデンで行われている「積極的な市場プログラム」というのがあります。OECDの積極的労働市場政策支出の対GDP比の比較からみると、日本と米国は最低でGDP比1%以下ですが、デンマークは毎年GDP比4.5%強を費やしているのです。「積極的な市場プログラム」により、i)専門学校や企業で実施される補助金による訓練プログラム、ii)新しい職種に挑戦する労働者のための再教育プログラム、iii)スキルの低い長期失業者を雇う企業に対する補助金などのより労働者の再教育・訓練および失業者の就職支援を実施しているのです(OECDデータ、週刊東洋経済2008年1月12日号)。日本のように失業者が路頭に迷うことがないので、安心して生活できるのです。

④ 年金制度
日本では名寄せできない「宙に浮いた5,000万件の年金記録問題」や「年金記録改ざん問題」など大きな問題が発生しており、多くの国民は国の年金制度に対して不信感を持っています。日本や他の先進諸国では、年金の財源を現役世代の保険料で賄う「賦課方式」を採用しているが、i) 少子高齢化が進むと、やがて年金財政がパンクすることであり、子供の数が増え続けない限り、この制度は維持できないのです。また、ii) 負担した保険料と将来受け取る年金額が直接リンクしないという問題があります。従来、スウェーデンでもこの賦課方式を採用していたが、上記のような問題に対処するために、1991年11月に与野党合同による「年金ワーキンググループ」を発足させたのです。このワーキンググループは国会ではなく政府の統轄下に置かれ、各党の実力者が互いの意見の違いを乗り越えて、政治家としての強いリーダーシップを発揮しながら議論を重ね、7年半を費やし年金改革を実施したのです(ニッセイ基礎研究所:年金ストラテジーVol.108, June 2005)。
日本では現在でも「基礎年金と所得に比例した年金との2階建て」であるのに対して、スウェーデンでは賦課方式を維持しながら「所得比例年金に一本化」し、負担と給付の関係を明確にわかる方式に改革したのです。その中でも指摘しておかなければならないスウェーデン方式の特徴は、賦課方式を維持しながら負担と給付をリンクさせるために導入されたのが「みなし積立方式」というものです。この方式によれば、加入者が支払った保険料が個人の口座に毎年積み立てられたと仮定して、その総額に一定の利回りをつけた額が老後の給付総額となるというものです。実際に、口座に保険料が積み上がるわけではないので、「みなし積立方式」と呼ばれているのです(高山憲之著 「信頼と安心の年金改革」 東洋経済新聞社2004年)。この新制度によって、負担と給付が概念上リンクすることになったので、スウェーデンでは若者の年金不信が解消されたと言われています。

新制度では、61歳以上であれば、加入者が需給開始年齢を自由に決めることができ、長く働くほど、受給額が増える仕組みになっています。さらに、新制度では、基礎年金を廃止したので、低所得者向けに全額を税金で賄う最低保証年金を導入しています。65歳以上でスウェーデンに40年間以上居住しておれば、年金保険料をまったく払わなくても、2004年度で毎月約10.5万円(税込)の年金を受け取ることができるのです。このように、負担と給付をリンクさせるために導入した「みなし積立制度」や「所得比例年金への一本化」によって、日本のような複雑な年金制度と比べて国民にとって非常にわかりやすい制度になったのです。

日本では、国民年金、厚生年金や共済年金などがあり、また厚生年金や共済年金では基礎年金と所得比例年金との2階建て方式からなるなど極めて複雑です。国民にとって分かりにくい年金制度である上に、賦課方式であるので負担と給付が直接リンクしていないことから、若年層に不公平感が生まれています。特に、国民年金では保険料納付率が60%程度で、もはや国の年金保険制度としての体を成しておらず、崩壊寸前にあるのが現状なのです。日本においても、スウェーデンのように年金制度の一本化や基礎年金部分(国民年金部分)の全額税方式への改革を急ぐべき時期に来ているのではないでしょうか。




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小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 | Comments(0) | Trackback(0)
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