2009/10/03
4. 小泉構造改革(新自由主義導入)による製造業の弱体化 -10) 富の再分配の不公平性と国民生活および中小零細企業の疲弊
富の再分配・所得再分配は、貧富の差を緩和させ、社会的な公平と活力を促すための経済政策の1つであるが、その中には①租税制度による所得再分配、②社会保障制度による所得再分配、③労働保障制度による所得再分配、④優遇税制度による所得再分配があります。
小泉構造改革を中心とした、この10年間で、大々的に大企業・高額所得者(株主)優遇の税制が急速に進められてきました。この間に、日本が税制改革として取り組んできたことは、低所得者への富(税)の再分配どころか、ますます大企業・高額所得者のような勝ち組・強者の税率を軽減し、より強くするための方向だったのです。
所得税の最高税率は1986年70%であったが、1999年には37%、07年以降は40%に軽減されています。この他に金持ち優遇税制として、小泉構造改革の真っただ中の03年に証券優遇税制が導入され、それまで総合課税が原則であった株式配当について、住民税を含めて20%の源泉分離課税を導入し、それまで26%であった株式譲渡所得の申告税率を20%に軽減した上で、どちらも期限を切って税率を10%に軽減されたが、当初07年までとされていたのが1年延長され、さらに自民党政府は3年延長して2011年まで10%税率を継続することを提案していたのです(これによって、年間1兆円減税に相当)。これに対して、庶民の細々とした預貯金に対する利子課税が20%であることと比較してもいかにも強者優遇の政治がまかり通っていたことを如実に示しています。
法人税についても、法人所得課税の実効税率(法人税+地方税)(2009年1月現在)は中国25.00%, イギリス28.00%, ドイツ29.83%, フランス33.33%, 日本40.69%, 米国40.75%であるとされています。日本の税率はかなり高く、経済界では「日本の法人税の実効税率は諸外国に比べて高い」と言って、さらなる引き下げを求めているが、よくよく調査・分析してみると、これら表面に現れている数字から短絡的に日本の法人税の実効税率が高いとは簡単に言えないのです。
最近の大企業優遇税制として、02年度の連結納税制度、03年度の研究開発減税、04年度の欠損金繰越期間の延長、07・08年度の原価償却制度の見直しなどや先進国との比較による日本企業の社会保険料負担の低さなどを考慮すると、実際の負担率は実効税率よりかなり低くなっているのです。
実際に、大企業各社の07年度の有価証券報告書によれば、税額控除などを含めた「調整後実効税率」はトヨタ28%, NTTドコモ27.5%, キャノン33.2%など、欧州諸国並みの低い数字になっているとの指摘もあります。
一方、小泉構造改革は04年度に労働者派遣法の大幅な規制緩和を実施して、製造業などの一般労働者にまで派遣労働を拡大したのです。それに伴い、労働条件の劣悪化(現在の蟹工船)、雇用環境の不安定化や所得の大幅な低下をもたらし、昭和の「いざなぎ景気」を凌いで長期に及んだ「平成の景気」という好況の中にあって、大企業が至上空前の利益を上げていながらも、労働分配率が毎年低下するというように労働者への富の再分配の不公平が進んでいったのです。
先にも述べたように、経済のグローバリゼーションにおける競争力維持のために、新自由主義者らは市場原理に基づき人件費を含めたコストの徹底的な削減を訴えていたが、実際にはその利潤の分配は競争力維持のための製品の値下げではなく、勝ち組への配分の増強、すなわち大企業の役員クラスの給与アップ(約2倍)、株主への高配当(約2.8倍)やその多くは内部留保に回されただけなのです。多くの国民は小泉構造改革による果実を期待したが、小泉や竹中らの口車にまんまと乗せられただけなのです。
さらに、小泉構造改革は、社会保障費の毎年の上昇分のうち2,200億円を削減し、07年から11年までの5年間に1兆1,000億円の社会保障費の削減を目指したのです。すなわち、小泉構造改革は、富の再分配における上記②の社会保障制度による所得分配機能の一部を破壊したのです。
このように、小泉構造改革は租税制度および労働保障制度による所得(富)の再分配機能や社会保障制度による所得再分配機能を崩壊させたのです、その結果が格差拡大社会の出現であったのです。
勤労者世帯の実収入は、消費税の税率アップ、大手金融機関が破綻した97年をピークに03年まで低下を続けており、それ以降の最近数年間はほぼ同額で推移しているが、現在の水準は15年前の90年に留まっているのです。消費者物価指数でデフレートした実質額を計算した場合、06年度の実収入は20年前の87年の水準に戻るというショッキングな結果が明らかにされています(三菱UFJ & コンサルティング調査部レポート)。
さらに、勤労者以外の世帯(個人営業世帯、経営者世帯、無職世帯)を含めた全世帯について、所得格差拡大が始まる95年と06年の年間収入階級別の世帯分布をみると、95年は世帯分布のモードは1,000 ~1,250万円未満の階級にあり、1,000万円以上の世帯は全体の20.0%を占めていました。これに対し06年では世帯分布モードは350~400万円未満へと大幅に低下し、1,000万円以上の世帯の割合も13.2%に低下しているのです。また、標準世帯の所得税の課税最低限の年収にあたる350万円未満の世帯が占める割合は、95年の13.2%から06年には19.4%へと顕著に増加しています(同レポート)。全世帯でみても世帯の分布は低所得の方にシフトしているのです。
最近の厚生労働省賃金構造基本調査では、フルタイムで働く人の08年の平均月給(残業代は除く)は前年比0.7%減の29万9千円(平均40.9歳)で3年連続で減少したことが明らかにされています。月給が30万円を切ったのは、10年ぶりであるということです(朝日新聞2009年3月26日付)。
06年度は平成景気の中にあり、06年度の国民総生産(GDP)は512兆1,987億円、経済成長率は名目1.7%, 実質2.5%で日本経済は拡大基調にありました。それにもかかわらず、前述のように勤労者世帯のおよび中小企業経営者の世帯を含めた全世帯の年間年収は、低下し続けており、大企業を中心に「リストラによる人件費削減」、「低賃金の派遣労働者の大量導入」や行き過ぎた下請け単価の切り下げによる「下請けいじめ」などを通して、勤労者や中小企業経営者から大収奪を行い、空前の利益を上げたのです。平成景気は「いざなぎ景気」を超えたとマスメディア等で大々的に喧伝されたにもかかわらず、その好況感は個々人の生活のみならず、下請けの中小零細企業には実感として感じられなかったのは当然のことなのです。
企業、とくに大企業は、利益をほどほどにして、その分を「賃上げ」、「雇用維持」、「人材育成」や「下請けの中小企業の育成」に投資するパラダイムへの本格的な変革が必要な時期に来ているのではないでしょうか。そうしなければ、将来、企業の存続をも否定されかねない状況に陥ることは必至ではないでしょうか。希望を持って働く意欲を促すためにも、富の公平な再分配機能を回復させることが喫緊の課題ではないでしょうか。
日本の製造業が新自由主義による「短期的利益の最大化」を追い求めていく先には、新自由主義先進国、米国に見られるような競争力のない悲惨な製造業の姿があり、そうなることを絶対に避けるべきなのです。
小泉構造改革を中心とした、この10年間で、大々的に大企業・高額所得者(株主)優遇の税制が急速に進められてきました。この間に、日本が税制改革として取り組んできたことは、低所得者への富(税)の再分配どころか、ますます大企業・高額所得者のような勝ち組・強者の税率を軽減し、より強くするための方向だったのです。
所得税の最高税率は1986年70%であったが、1999年には37%、07年以降は40%に軽減されています。この他に金持ち優遇税制として、小泉構造改革の真っただ中の03年に証券優遇税制が導入され、それまで総合課税が原則であった株式配当について、住民税を含めて20%の源泉分離課税を導入し、それまで26%であった株式譲渡所得の申告税率を20%に軽減した上で、どちらも期限を切って税率を10%に軽減されたが、当初07年までとされていたのが1年延長され、さらに自民党政府は3年延長して2011年まで10%税率を継続することを提案していたのです(これによって、年間1兆円減税に相当)。これに対して、庶民の細々とした預貯金に対する利子課税が20%であることと比較してもいかにも強者優遇の政治がまかり通っていたことを如実に示しています。
法人税についても、法人所得課税の実効税率(法人税+地方税)(2009年1月現在)は中国25.00%, イギリス28.00%, ドイツ29.83%, フランス33.33%, 日本40.69%, 米国40.75%であるとされています。日本の税率はかなり高く、経済界では「日本の法人税の実効税率は諸外国に比べて高い」と言って、さらなる引き下げを求めているが、よくよく調査・分析してみると、これら表面に現れている数字から短絡的に日本の法人税の実効税率が高いとは簡単に言えないのです。
最近の大企業優遇税制として、02年度の連結納税制度、03年度の研究開発減税、04年度の欠損金繰越期間の延長、07・08年度の原価償却制度の見直しなどや先進国との比較による日本企業の社会保険料負担の低さなどを考慮すると、実際の負担率は実効税率よりかなり低くなっているのです。
実際に、大企業各社の07年度の有価証券報告書によれば、税額控除などを含めた「調整後実効税率」はトヨタ28%, NTTドコモ27.5%, キャノン33.2%など、欧州諸国並みの低い数字になっているとの指摘もあります。
一方、小泉構造改革は04年度に労働者派遣法の大幅な規制緩和を実施して、製造業などの一般労働者にまで派遣労働を拡大したのです。それに伴い、労働条件の劣悪化(現在の蟹工船)、雇用環境の不安定化や所得の大幅な低下をもたらし、昭和の「いざなぎ景気」を凌いで長期に及んだ「平成の景気」という好況の中にあって、大企業が至上空前の利益を上げていながらも、労働分配率が毎年低下するというように労働者への富の再分配の不公平が進んでいったのです。
先にも述べたように、経済のグローバリゼーションにおける競争力維持のために、新自由主義者らは市場原理に基づき人件費を含めたコストの徹底的な削減を訴えていたが、実際にはその利潤の分配は競争力維持のための製品の値下げではなく、勝ち組への配分の増強、すなわち大企業の役員クラスの給与アップ(約2倍)、株主への高配当(約2.8倍)やその多くは内部留保に回されただけなのです。多くの国民は小泉構造改革による果実を期待したが、小泉や竹中らの口車にまんまと乗せられただけなのです。
さらに、小泉構造改革は、社会保障費の毎年の上昇分のうち2,200億円を削減し、07年から11年までの5年間に1兆1,000億円の社会保障費の削減を目指したのです。すなわち、小泉構造改革は、富の再分配における上記②の社会保障制度による所得分配機能の一部を破壊したのです。
このように、小泉構造改革は租税制度および労働保障制度による所得(富)の再分配機能や社会保障制度による所得再分配機能を崩壊させたのです、その結果が格差拡大社会の出現であったのです。
勤労者世帯の実収入は、消費税の税率アップ、大手金融機関が破綻した97年をピークに03年まで低下を続けており、それ以降の最近数年間はほぼ同額で推移しているが、現在の水準は15年前の90年に留まっているのです。消費者物価指数でデフレートした実質額を計算した場合、06年度の実収入は20年前の87年の水準に戻るというショッキングな結果が明らかにされています(三菱UFJ & コンサルティング調査部レポート)。
さらに、勤労者以外の世帯(個人営業世帯、経営者世帯、無職世帯)を含めた全世帯について、所得格差拡大が始まる95年と06年の年間収入階級別の世帯分布をみると、95年は世帯分布のモードは1,000 ~1,250万円未満の階級にあり、1,000万円以上の世帯は全体の20.0%を占めていました。これに対し06年では世帯分布モードは350~400万円未満へと大幅に低下し、1,000万円以上の世帯の割合も13.2%に低下しているのです。また、標準世帯の所得税の課税最低限の年収にあたる350万円未満の世帯が占める割合は、95年の13.2%から06年には19.4%へと顕著に増加しています(同レポート)。全世帯でみても世帯の分布は低所得の方にシフトしているのです。
最近の厚生労働省賃金構造基本調査では、フルタイムで働く人の08年の平均月給(残業代は除く)は前年比0.7%減の29万9千円(平均40.9歳)で3年連続で減少したことが明らかにされています。月給が30万円を切ったのは、10年ぶりであるということです(朝日新聞2009年3月26日付)。
06年度は平成景気の中にあり、06年度の国民総生産(GDP)は512兆1,987億円、経済成長率は名目1.7%, 実質2.5%で日本経済は拡大基調にありました。それにもかかわらず、前述のように勤労者世帯のおよび中小企業経営者の世帯を含めた全世帯の年間年収は、低下し続けており、大企業を中心に「リストラによる人件費削減」、「低賃金の派遣労働者の大量導入」や行き過ぎた下請け単価の切り下げによる「下請けいじめ」などを通して、勤労者や中小企業経営者から大収奪を行い、空前の利益を上げたのです。平成景気は「いざなぎ景気」を超えたとマスメディア等で大々的に喧伝されたにもかかわらず、その好況感は個々人の生活のみならず、下請けの中小零細企業には実感として感じられなかったのは当然のことなのです。
企業、とくに大企業は、利益をほどほどにして、その分を「賃上げ」、「雇用維持」、「人材育成」や「下請けの中小企業の育成」に投資するパラダイムへの本格的な変革が必要な時期に来ているのではないでしょうか。そうしなければ、将来、企業の存続をも否定されかねない状況に陥ることは必至ではないでしょうか。希望を持って働く意欲を促すためにも、富の公平な再分配機能を回復させることが喫緊の課題ではないでしょうか。
日本の製造業が新自由主義による「短期的利益の最大化」を追い求めていく先には、新自由主義先進国、米国に見られるような競争力のない悲惨な製造業の姿があり、そうなることを絶対に避けるべきなのです。
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