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2009/07/16

3. 小泉構造改革による持続性社会の疲弊 -2) 内需経済の芽の摘み取り (3) リスク回避とイノベーションの停滞

北欧のデンマーク、スウェーデンやフィンランドなどは高負担、高福祉の社会民主主義国家であり、大きな政府に当たるが、後で詳しく述べるように、日本などに比べて遥かに高い経済成長率を達成しているのです。たとえば、国民の真の豊かさを表す指標の一つである「1人当たりの名目GDP」について、93~05年までの12年間での伸び率を比較すると、米国1.57、フィンランド2.04、ノルウェー2.30、スウェーデン1.72倍に増加しているのに対して、日本は土地バブル崩壊後のデフレ経済により0.95倍と93年に比べて減少しているのです。
これらの北欧諸国では、高負担であるが、国家がそれに見合う社会保障を提供し、国民も国家を信頼し、安心して働き、将来の生活に心配がないので消費が活発になり内需経済が活性化すると同時に、このような社会では、先にも述べたようにリスクを怖がらずにチャレンジすることができるのです。
その結果、フィンランドでは産官学連携による活発なイノベーションにより世界標準となるデジタル携帯電話が生まれ、競争力のある外需経済などに結びついており、見習うべき経済体制として注目されています。

日本のように将来不安を煽られ、国家による社会保障があてにできず、老後は自己責任で守らなければならない状況では、貯蓄に精を出さなければならず、個人消費の増加を期待することはできません。
また、リスクをとって、もし失敗すれば、直ちにホームレスやネットカフェ難民に転落するようなセーフティネットが整っていない日本では、リスクテイクによるイノベーションが停滞することは間違いのないところであり、かつての技術立国の崩壊がすでに始まっているのです。
このことが、現在の日本経済の低迷および世界における日本の相対的地位の低下を招いているのではないでしょうか。

小泉構造改革を支持し、派遣労働を肯定している御用学者、経済評論家、エコノミストやコメンテーターなどの勝ち組(強者)の論理は、①グローバル経済において、中国やインドなどの新興国(BRICs)との競争に勝つためには労働コストの削減は避けられない、②派遣労働は多様な働き方を求める若者のニーズに沿ったものである、③定職に就けないのは社会的ニーズがあるスキルを持っていないからであって自己責任である、とするのもです。
しかしながら、冷静に考えてみると、これら強者の論理は何らの根拠もいなく、自らの勝者としての立場を自己擁護するにすぎないものなのです。

グローバル経済で、人件費コストを削減しないと中国やインドなどの新興国との競争で日本企業は生き残れないとするものであるが、企業は派遣労働により浮かしたコストを競争力維持のために製品価格に反映させてはいないのです。
昭和の「いざなぎ景気」を上回ると言われた「平成の景気」を支えたのは人件費コスト低減による生産性の向上であり、決して日本企業によるイノベーション(技術革新)によるものではありません。
多くの企業では至上空前の利益を上げているが、その利益はどのように分配されたのでしょうか。財務省「法人企業統計」によれば、2001年から2005年の4年間で、株主配当の総額は約2.8倍増加、さらに大企業の役員報酬が2001年から2006年の5年間で約2倍以上に増加しています。それ以外は内部留保に回されただけなのです。この間の一般労働者への労働分配率は低下の一途を辿っているのです。
このように、人件費コスト削減で得た利益を競争力維持のための製品価格の引き下げに使われてはいないのです。新自由主義者らは日本経済のグローバル化のためのコスト競争力向上に当たり、労働者を物品化して、従来まで固定費とされていた人件費を物件費として徹底的なコスト削減を推進したのです。このようにして得られた利益は、資本家(株主)や大企業の役員などの勝ち組(強者)に分配されたのです。
中国の人件費コストは日本の約1/10 ~1/20と言われており、新興国でも生産可能な産業分野においては、いくら日本の労働者の人件費コストを削減してもコスト競争に勝てるわけがないことは明らかなことです。
これら強者の論理は、日本が「科学技術立国を礎に、イノベーションを競争力の源泉として世界の中で経済成長を遂げ発展してきた」という観点がまったく欠如した、本当に軽薄で、単に勝者としての立場を自己擁護する以外のなにものでもないのです。
日本の製造業の強みは絶え間ないイノベーションにより、中国やインドなどBRICs諸国が追従できない高度技術と品質管理に基づいた高付加価値産業を創出して経済成長を果たしてきたところにあるのです。
世界を相手にするグローバル経済において、新興国に勝つためには人件費コストの削減競争ではなく、日本の優秀な労働者や技術者によるイノベーションやQC活動により裏打ちされ、他者に追従されない高付加価値産業分野の創出以外にないのではないでしょうか。人件費の削減による安易な目先だけの金儲け競争は、かえって日本の社会、経済を疲弊・弱体化するだけなのです。

画期的なイノベーションにはリスクを回避ぜす、果敢にチャレンジすることが必要であるが、小泉構造改革により、安易に、かつ短期間に利益が得られることを身につけたので、そのようなリスクとチャレンジを避ける風土が蔓延しているのです。
事実、2008年度年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)によると、白書のサブタイトルは「リスクに立ち向かう日本経済」としているが、それが願望であり、現実はこれとは全く逆で、「リスクに立ち向かわない日本」の現状について書かれているのです。
小泉構造改革により労働者派遣法の行き過ぎた規制緩和による非正規社員の急増(全労働者の約1/3)による人件費コストの削減による安易で、かつ短期的な利潤追求に走った結果、長期的観点にたった、人材の育成、リスクテイクなイノベーション等による、かつての「科学技術立国」がすでに弱体化しつつあるのです。
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小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 | Comments(3) | Trackback(0)
Comment
北欧世界の幻想
いろいろ調べてみると、どうも、北欧はすばらしいというほどではないようです。たしかに、医療費などはかからないですが、緊急外来で6時間待ちとか、犯罪発生率も日本の数倍とかでは、国家が日本並みに運営されているとは思えません。

しかも、一部の上流階級の老人以外の人の実情は散々たる状況という話もあるのです。失業も多いし、日本で言われているほどではないようです。いろいろ調べてみると小泉改革政権時代の日本に方がはるかにましではないかとも思います。

多くの日本人は幻想を見ているのではないでしょうか?中福祉中負担というのが日本にはあっているような気がします。
貿易圏をわける。
>日本の製造業の強みは絶え間ないイノベーションにより、中国やインドなどBRICs諸国が追従できない高度技術と品質管理に基づいた高付加価値産業を創出して経済成長を果たしてきたところにあるのです。

誰でもできる仕事をたくさんもってきたところが豊かになれるという原則を忘れないで欲しいのですね。

高度な産業には高度な知識が必要になります。それに、誰もが適正があるわけじゃありません。グローバルスタンダードを守っていては、結局は日本人は豊かになれないのです。新興国経済と先進国経済を貿易圏として分けるべきです。
小泉改革の再評価
小泉改革というのは、結局、円安を誘導し、派遣労働者を多く作ることで賃金を下げ、日本の労働者の受注を増やした政策です。何のことはないのです。構造改革なんてしろものではなかったのですが、これが生きて行くための基本的な考えだと思います。

したがって、グローバルスタンダードは今となっては日本には不向きであるということです。

貿易圏を分け、賃金水準の同じもの同士で貿易をするようにしないと日本は沈没すると思います。

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