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2014/12/03

6. 低炭素・循環型社会の構築

8) 循環型エネルギー社会の実現に向けた最先端未来技術 ~ 人工光合成システム
8)-1 未知の領域(人工光合成)への挑戦
人工光合成とは植物の光合成を人工的にミミックした技術です。植物の光合成反応は、
①明反応: 太陽光のエネルギーで水を分解して水素イオンと電子と酸素を生成、
②暗反応: 明反応で得られた電子と水素イオンを用いて二酸化炭素からグルコースを始めとしてデンプンやセルロースなどの炭水化物を生成、
から成り立っています。
化石燃料から発生する地球温暖化ガスである二酸化炭素を吸収すると共に、その二酸化炭素から燃料を造りだす技術として人工光合成は世界中から注目されています。

日本における人工光合成の研究開発は、大学および企業それぞれで活発に行われています。大学などで行われている研究の多くは、誘起錯体(有機物系の配位子に金属の原子が結合した構造を持つ化合物)を用いて植物の光合成をミミックするというアプローチを採用しており、多くの注目すべき成果が得られています。しかしながら、誘起錯体は特定の波長の光にしか反応しないため、幅広い波長で構成されている太陽光を十分に活用できないという欠点が指摘されています。
一方、企業サイド、特にパナソニックの先端技術研究所が開発された人工光合成システムは、次のような特徴を持っており非常に注目されています。
①光電極に窒化半導体を採用、光により励起された電子を二酸化炭素の還元に必要なエネルギー状態にまで一気に高めることに初めて成功、
②還元電極に電子が伝わりやすい金属触媒を用いることで二酸化炭素の反応を促進。電気的な損失がすくないために、反応速度が高速化されるとともに、触媒となる金属の種類を変えれば、有機物を選択的に生成させることが可能。
このように、「反応に用いる電極をすべて無機材料のみで構成するシンプル、かつ高効率なシステム」であるという特徴を有するパナソニックの独自技術なのです。

8)-2 光電極 ~ GaN半導体の採用
人工光合成システムを開発するに当たって、二酸化炭素は物が燃焼した後に残る安定した物質です。そのため、二酸化炭素から炭化水素やアルコールを生成する反応を起こすには、高いエネルギーが必要となります。太陽光からいかにして高い反応エネルギーを造りだすかが大きな課題でした。
半導体に光を照射すると光のエネルギーによって半導体の電子がその物質固有のエネルギー状態へと高められます。パナソニックのプロジェクトメンバーは、このエネルギー状態の高さに注目し、様々な物質に対して、光を吸収した電子のエネルギー状態を調べ、窒化物系の材料を用いれば二酸化炭素の還元に必要なレベルにまで電子のエネルギーを高められることを見出したのです。LED照明やパワーデバイスの材料としてなじみ深い窒化ガリウム(GaN)を光電極として採用したのです。

さらに、これまで培った半導体技術を生かして、GaN電極の高効率化を図るための工夫を施しました。光を吸収して電子を生成する「光吸収層」と、電子が移動しやすい「電子伝導層」からなる積層構造の光電極を考案、サファイヤ基板上に結晶成長させたn型のGaN層上に、窒化アルミニュームガリウム(AlGaN)層を形成させました。さらに、電極表面には酸素の発生を促進する触媒として酸化ニッケル(NiO)を配置。こうした工夫により太陽光が二酸化炭素の反応に必要なエネルギーの電子を効率よく生成することに成功したのです。

業界において、光触媒としては酸化チタンに代表される酸化物系の粉末触媒が主流であり、多くの研究者にとって窒化物であり比較的波長の短い光にしか反応しないGaNは研究の対象外でした。その上に、半導体技術者にとってGaNはなじみ深い物質であるものの、半導体基板をそのまま電解質溶液に浸すなど常識ではありえない発想であったのです。
その領域の「常識」や「先入観」にとらわれることなく、化学や半導体など、それぞれの領域が交わらない隙間にこそ解があるとする確信が、この人工光合成システムの開発に導いたとのことです。



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小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 | Comments(0) | Trackback(0)
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