2010/12/27
5. 日本の進むべき道 -小さな政府か、大きな政府か -
3) 小さな政府、米国の実態
3-10) 覇権国としての国力と底力
a) 再生可能でクリーンな新エネルギーの開発
ガソリン高騰に対する政策としてブッシュ政権が大々的に取り上げたのがガソリン代替燃料としてバイオエタノール生産拡大政策ですが、これは原油、ガソリン価格の高騰による思いつき戦略であり、早くも破綻寸前の状態に追い込まれています。その大きな誤りの一つは、食糧や家畜飼料として不可欠な穀物であるトウモロコシを原料としてバイオエタノールの生産とその生産拡大戦略を取ったことではないでしょうか。その結果、トウモロコシの価格が上昇し、生産農家は小麦や大豆などから価格の上昇したトウモロコシへの作付け転換を促進した結果、小麦や大豆の供給が減り、これらの価格も急騰することになりました。このような需給バランスの崩れだけでなく、儲けることに目敏い投機マネーは今度はこれら穀物相場に向かい、穀物相場の急騰に拍車をかけたのです。
一方、バイオエタノール生産企業は多額の投資により生産設備の増強を図り、またこの業界への新規参入組を加えて、トウモロコシからのバイオエタノールの生産増強に一斉に走りだしました。その結果、米国のトウモロコシに食糧を委ねるアフリカの一部途上国において、食糧の高騰と不足が起こり暴動に発展しました(「穀物価格の高騰と国際食糧の需給」国立国会図書館ISSUE BRIEF NUMBER 617, 2008年6月10日)。
米国においては、バイオエタノール生産原料のトウモロコシの価格が3倍以上に跳ね上がりブームに乗って精製工場の建設に走ったエタノール生産業者は大きな打撃を受けることになりました(ダイアモンド・オンライン2008年8月18日)。新設した設備の操業の見通しも立たず、倒産に追い込まれるエタノール生産業者も出てきたのです。それは高騰する原料、トウモロコシ価格に比べて、バイオエタノール価格は低いままで、利益は薄くなっていることであり、これは石油業界がエタノール混合率の高い給油スタンドの拡大に消極的であったという背景も作用しているからです。生産農家もバイオ燃料の原料としてのトウモロコシに期待をかけ、借金をしてまで地域のエタノール生産業者の呼びかけに応じてエタノール精製設備費への投資を積極的に行ったのです。しかしながら、新設設備を稼働させることなく倒産に追い込まれ、借金だけが残ったという悲惨な状況が生まれています。
サトウキビからバイオエタノールを生産しているブラジルにおいては、クルマの燃料としてエタノールがガソリンを抜く勢いです。サトウキビを原料として生産されるバイオエタノールは、その絞りカスであるバガスを工場の燃料として利用できるので、米国のように高騰したトウモロコシを原料とするエタノール燃料に比べて価格競争力があり、ブラジル産バイオエタノールは米バイオエタノール燃料市場への参入を目論んでいます(朝日新聞2008年7月22日付)。ブラジル産バイオエタノールにも問題がないわけではなく、サトウキビからのエタノール生産が拡大すると、耕地面積を増やそうとしてアマゾンなどの熱帯雨林の破壊につながり(時事通信2008年11月29日配信)、ガソリンに代わりCO2ガスゼロエミション(実際は精製工程などで化石燃料を使用するのでCO2の発生はゼロではない)といわれるバイオエタノール燃料は地球温暖化の抑制というよりは、むしろ加速さえかねない危険性があるのです。このように、穀物やサトウキビを原料、すなわち澱粉や糖分を原料とするバイオエタノール発酵による生産は価格が高くなり、またその原料確保のための食糧不足、穀物相場の急騰や耕地の拡大のための森林破壊などは避けられません。
そこで、オバマ政権で提唱されている「グリーン・ニュディール政策」では、1000億ドルを投じた「グリーンリカバリー」プログラムにより、2年以内に200万人の新たな雇用を生みだすと宣言しています(Center for American Progress: A program to create good jobs and start building a low carbon economy, September 2008)。具体的な推進項目として、「エネルギー効率を高める建築物の改造」、「公共交通機関と貨物鉄道の拡張」、「高性能な送電網システムの構築、スマートグリッド」および「風力発電・太陽光発電・進歩したバイオ燃料」などが注目されているのです。新ニュディール政策における「グリーンリカバリー」プログラムの多くは、日本が社会的にも技術的にも先行している分野が多く、今後とも日米間の激烈な競争が展開されることが予想されるが、日本にはこれら競争に打ち勝つための国力や日本人のバイタリティーが残っているのかどうか疑問です。
米国がこのグリーン革命で目指している「進歩したバイオ燃料」の一つは、第二世代のバイオエタノール生産ではないかと考えられるのです。第二世代のバイオエタノール生産には、原料として第一世代での穀物やサトウキビ由来の澱粉や糖分に代えて、草木の主成分であるセルロースを用いるのではないかと考えられるのです。しかしながら、セルロースは澱粉と同様にブドウ糖が繋がった多糖類であるが、澱粉に比べて、酵母や細菌などの発酵微生物に利用し難いため、発酵効率が非常に悪いのです。このセルロースをセルラーゼという酵素でグルコースまで分解し、これらセルロース分解糖を原料にして酵母によるアルコール発酵が可能なのです。この分野は日本が得意とする分野であり、一歩進んでいますが、いかにコストダウンするかが今後の大きな研究課題なのです。このようなセルロースを原料にしてエタノールの生産が可能になれば、間伐材、廃材、竹、稲わら、麦わら、草木などを原料にして、本当に地球にやさしい、再生可能でクリーンな新エネルギーとしてのバイオエタノール燃料生産が可能となるのです。
米国は、バイテクノロジーの本命である「植物バイオ」で先端を走っており、前述したように、トウモロコシや大豆では遺伝子操作作物(GM作物)による生産が40~80%以上に達しています。GM植物を排除している日本は、アジア諸国の中でも植物バイオが最も遅れている国になっています。米国は、これらの植物GM技術を使い、より分解しやすいセルロース高含有GM植物、セルラーゼ高生産菌やエタノール発酵効率の高い酵母の育種改良などによる効率的なバイオエタノール燃料の開発や藻類による石油様燃料の効率的な生産を目指しているのではないかと思われます。さらに、米国は原子力発電、特に人類をエネルギー問題から解放すると期待されている後述の熱核融合発電の実用化等により、米国は世界で最初の脱石油の低炭素社会を築く国力と能力を持っている国であることは違いのないところです。
3-10) 覇権国としての国力と底力
a) 再生可能でクリーンな新エネルギーの開発
ガソリン高騰に対する政策としてブッシュ政権が大々的に取り上げたのがガソリン代替燃料としてバイオエタノール生産拡大政策ですが、これは原油、ガソリン価格の高騰による思いつき戦略であり、早くも破綻寸前の状態に追い込まれています。その大きな誤りの一つは、食糧や家畜飼料として不可欠な穀物であるトウモロコシを原料としてバイオエタノールの生産とその生産拡大戦略を取ったことではないでしょうか。その結果、トウモロコシの価格が上昇し、生産農家は小麦や大豆などから価格の上昇したトウモロコシへの作付け転換を促進した結果、小麦や大豆の供給が減り、これらの価格も急騰することになりました。このような需給バランスの崩れだけでなく、儲けることに目敏い投機マネーは今度はこれら穀物相場に向かい、穀物相場の急騰に拍車をかけたのです。
一方、バイオエタノール生産企業は多額の投資により生産設備の増強を図り、またこの業界への新規参入組を加えて、トウモロコシからのバイオエタノールの生産増強に一斉に走りだしました。その結果、米国のトウモロコシに食糧を委ねるアフリカの一部途上国において、食糧の高騰と不足が起こり暴動に発展しました(「穀物価格の高騰と国際食糧の需給」国立国会図書館ISSUE BRIEF NUMBER 617, 2008年6月10日)。
米国においては、バイオエタノール生産原料のトウモロコシの価格が3倍以上に跳ね上がりブームに乗って精製工場の建設に走ったエタノール生産業者は大きな打撃を受けることになりました(ダイアモンド・オンライン2008年8月18日)。新設した設備の操業の見通しも立たず、倒産に追い込まれるエタノール生産業者も出てきたのです。それは高騰する原料、トウモロコシ価格に比べて、バイオエタノール価格は低いままで、利益は薄くなっていることであり、これは石油業界がエタノール混合率の高い給油スタンドの拡大に消極的であったという背景も作用しているからです。生産農家もバイオ燃料の原料としてのトウモロコシに期待をかけ、借金をしてまで地域のエタノール生産業者の呼びかけに応じてエタノール精製設備費への投資を積極的に行ったのです。しかしながら、新設設備を稼働させることなく倒産に追い込まれ、借金だけが残ったという悲惨な状況が生まれています。
サトウキビからバイオエタノールを生産しているブラジルにおいては、クルマの燃料としてエタノールがガソリンを抜く勢いです。サトウキビを原料として生産されるバイオエタノールは、その絞りカスであるバガスを工場の燃料として利用できるので、米国のように高騰したトウモロコシを原料とするエタノール燃料に比べて価格競争力があり、ブラジル産バイオエタノールは米バイオエタノール燃料市場への参入を目論んでいます(朝日新聞2008年7月22日付)。ブラジル産バイオエタノールにも問題がないわけではなく、サトウキビからのエタノール生産が拡大すると、耕地面積を増やそうとしてアマゾンなどの熱帯雨林の破壊につながり(時事通信2008年11月29日配信)、ガソリンに代わりCO2ガスゼロエミション(実際は精製工程などで化石燃料を使用するのでCO2の発生はゼロではない)といわれるバイオエタノール燃料は地球温暖化の抑制というよりは、むしろ加速さえかねない危険性があるのです。このように、穀物やサトウキビを原料、すなわち澱粉や糖分を原料とするバイオエタノール発酵による生産は価格が高くなり、またその原料確保のための食糧不足、穀物相場の急騰や耕地の拡大のための森林破壊などは避けられません。
そこで、オバマ政権で提唱されている「グリーン・ニュディール政策」では、1000億ドルを投じた「グリーンリカバリー」プログラムにより、2年以内に200万人の新たな雇用を生みだすと宣言しています(Center for American Progress: A program to create good jobs and start building a low carbon economy, September 2008)。具体的な推進項目として、「エネルギー効率を高める建築物の改造」、「公共交通機関と貨物鉄道の拡張」、「高性能な送電網システムの構築、スマートグリッド」および「風力発電・太陽光発電・進歩したバイオ燃料」などが注目されているのです。新ニュディール政策における「グリーンリカバリー」プログラムの多くは、日本が社会的にも技術的にも先行している分野が多く、今後とも日米間の激烈な競争が展開されることが予想されるが、日本にはこれら競争に打ち勝つための国力や日本人のバイタリティーが残っているのかどうか疑問です。
米国がこのグリーン革命で目指している「進歩したバイオ燃料」の一つは、第二世代のバイオエタノール生産ではないかと考えられるのです。第二世代のバイオエタノール生産には、原料として第一世代での穀物やサトウキビ由来の澱粉や糖分に代えて、草木の主成分であるセルロースを用いるのではないかと考えられるのです。しかしながら、セルロースは澱粉と同様にブドウ糖が繋がった多糖類であるが、澱粉に比べて、酵母や細菌などの発酵微生物に利用し難いため、発酵効率が非常に悪いのです。このセルロースをセルラーゼという酵素でグルコースまで分解し、これらセルロース分解糖を原料にして酵母によるアルコール発酵が可能なのです。この分野は日本が得意とする分野であり、一歩進んでいますが、いかにコストダウンするかが今後の大きな研究課題なのです。このようなセルロースを原料にしてエタノールの生産が可能になれば、間伐材、廃材、竹、稲わら、麦わら、草木などを原料にして、本当に地球にやさしい、再生可能でクリーンな新エネルギーとしてのバイオエタノール燃料生産が可能となるのです。
米国は、バイテクノロジーの本命である「植物バイオ」で先端を走っており、前述したように、トウモロコシや大豆では遺伝子操作作物(GM作物)による生産が40~80%以上に達しています。GM植物を排除している日本は、アジア諸国の中でも植物バイオが最も遅れている国になっています。米国は、これらの植物GM技術を使い、より分解しやすいセルロース高含有GM植物、セルラーゼ高生産菌やエタノール発酵効率の高い酵母の育種改良などによる効率的なバイオエタノール燃料の開発や藻類による石油様燃料の効率的な生産を目指しているのではないかと思われます。さらに、米国は原子力発電、特に人類をエネルギー問題から解放すると期待されている後述の熱核融合発電の実用化等により、米国は世界で最初の脱石油の低炭素社会を築く国力と能力を持っている国であることは違いのないところです。
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