2010/01/16
5. 日本の進むべき道 -小さな政府か、大きな政府か
3) 小さな政府、米国の実態
3)-1 米金融危機と世界経済の同時大不況の経緯
第一ラウンド:米大手金融機関のサブプライムローン関連巨額損失と米金融保障会社「モノライン」の経営不安
サブプライムローン破綻により引き起こされた米国金融危機による世界経済の同時不況は、全人類の生活を破壊する「米国発金融テロ」と呼ぶべきものではないでしょうか。
新自由主義経済においては、規制を撤廃し、自由な「市場メカニズム」を信頼することにより経済合理性が達成されることを期待しているのです。しかしながら、何の規制もなくなった市場原理主義は、「経済合理性」というよりは、むしろ「人間の欲望」のままに自由奔放な市場経済を形成させたのです。
当ブログで再三述べているように、新自由主義は市場原理(競争原理)により経済合理性が達成されるという理論に基づいており、その理論には正しいところもあるが、「人間の欲望には際限がない」という根本的な原理を欠いているところに最大の問題があるのです。それ故、目的とする「経済合理性」とは全くかけ離れた「強欲による金儲け主義」が蔓延し、カネさえ儲かれば何でもよいとするマネーゲームが主流となって多くの問題を発生させたのです。
その象徴的な事例の一つが、米国における信用力の低い(低所得者層を対象とした)個人向け高金利住宅融資「サブプライムローン」問題なのです。もともと、住宅購入など不可能な低所得者層に対して、住宅価格の右肩上がりの上昇を前提として高金利の住宅ローンを組んで無理やり住宅を購入させたのです。住宅価格の右肩上がりの上昇局面では、購入時よりも値上がりした時点で住宅を転売すれば低所得者層にも転売利益が入ってくるのです。
このような状況下、融資側による、①ローン金利は高い住宅の値上がりが続けば低金利のローンに借り換えられるから大丈夫、②返済に行き詰まっても住宅を転売すればお釣りがくる、などの宣伝に踊らされて、多くの低所得者層が住宅購入に走ったのです。
このような「住宅神話」を背景にサブプライムローンの融資残高は06年末で1.3兆ドル(約150兆円)と米住宅ローン全体の14%を占めるまでになったのです(朝日新聞2007年9月9日付)。
そこで、多くの低所得者層がサブプライムローンを組んで住宅を購入に走った結果、米国における住宅バブルが発生したのです。低所得者層でも住宅購入が可能なサブプライムローンシステムは、住宅価格の右肩上がりの上昇を前提にしているため、住宅価格の低迷や下落局面に入ると一斉に破綻する危険性があり、非常に不安定なものなのです。 まるで、日本における悪名高い「ネズミ講」そのものなのです。したがって、このサブプライムローンは高金利であるものの、投資銀行にとっては焦げ付くという大きなリスクを孕んでいたのです。
そこで、投資銀行はリスク回避の仕掛けとして、得体の知れない金融工学というツールを使って住宅ローン債権を証券化して、住宅ローン債権を数百から数千単位で束ね、それを小口の証券化商品に仕立て、種々の証券化商品の中に、あるいは優良な債権商品に組み込んで全世界の金融機関に販売したのです。
比較的金利面で有利な販売であった上に、米国格付け会社は「トリプルA]などの高格付けをサブプライム関連証券に与えたことにより、投資家をサブプライム関連証券に走らせる結果となったのです。その結果、95年に185億ドルだったサブプライム関連証券の発行額は、05~06年には5,000億ドル前後に急拡大したのです(JRI news release 金融レポートNo.2007-2, 2008年1月18日)。
米国金融機関によるサブプライムローンの証券化は非常に複雑なプロセスを経由しているため、サブプライムローン債権がどうのような証券化商品に組み込まれているのかという実態さえ掴めない状況に至ったのです。そのため、サブプライムローンとは全く関係のない優良な証券化商品さえ買い手が付かないという混乱が市場に広がると共に、そこに疑心暗鬼が重なり世界的規模の金融不安を招くことになったのです。
サブプライムローン問題で始まった欧米の金融不安の第一ラウンドは、ローンの焦げ付きに端を発して始まりました。06年後半以降、金利上昇などを背景に米国の住宅バブルが崩壊し、サブプライムローンの焦げ付きが急増し始めたのです。07年夏以降、格付けが一気に引き下げられたサブプライム関連証券の価格は暴落し、同証券を保有していた金融機関に巨額の損失を発生させたのです。
当時、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米議会下院予算委員会でサブプライムローンの総額は、約1兆ドルで、ローンの焦げ付きや住宅差し押さえが増えて損失額が最大になったとしても50% (5000億ドル、約50兆円)以下と述べていました。
この第一ラウンドにおける米大手金融機関の損失額は巨額に達しており、メリルリンチは、07年10~12月期決算でサブプライムローンに関連した評価損などが141億ドルに膨らみ、純損失額は約98億ドルと発表し、7~9月期の84億ドルを上回ったのです。08年4~6月期決算で約97億ドル(約1兆円)の損失が生じ、4四半期連続赤字で、08年6月までのサブプライム関連の年間損失額は、4兆円に達したのです(四国新聞2008年7月18日付)。
シティーグループも07年度10~12月期決算で222億ドルの損失を計上しました。また、08年4~6月期決算ではサブプライムローンの焦げ付き急増から約72億ドルの損失が生じた結果、純損益が24億9500万ドル(約2700億円)と3四半期連続で赤字になっていました(毎日新聞2008年1月15日付)。08年6月までのサブプライム関連の年間損失は、実に5兆3000億円に達したのです(AFP BBNews 2008年7月19日)。
このような巨大な損失に伴い、緊急の資本増強が必要なシティグループでは中東産油国からの資金援助を仰ぐ事態になったことは、記憶に新しいところです。
シティグループ、メリルリンチ、バンカメなど、米国金融10社のサブプライム関連損失額は2000億ドル(約21兆円)に達したのです。
さらに、事態を悪くしたのは、景気の落ち込みに伴い、サブプライムローンだけでなく、本来返済能力が高いと見られていた通常の住宅ローンにまで焦げ付きが広がっていったことです。当時、「通常の住宅ローンの損失は今後、現在の3倍に増える可能性がある」(JPモルガン・チェース)との見方もあり、金融機関の損失計上は当面続くという予想が多く、米国金融の先行きへの不安感が根強いものとなったのです(朝日新聞2008年7月20日付)。
欧州では、英金融大手HBOSは08年1~3月期に約5,900億円のサブプライム関連商品の評価損、独大手のドイツ銀行も08年1~3月期に約4,400億円の評価損を計上しました(朝日新聞2008年4月29日付)。それらに加え、スイス大手のUBSによる約2兆円、英大手のロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)による約1.2兆円という巨額の損失の計上が相次いだのです。
一方、日本国内のサブプライム関連損失額は、2008年3月期決算で最高額がみずほファイナンシャルグループの5,310億円、次いで野村ホールディングスの2,600億円、三井住友ファイナンシャルグループ1,230億円、農林中金の1,000億円、三菱UFJファイナンシャルグループの950億円と続き、トータル約1兆3,509億円程度であり、欧米と比べ損失額は軽微に済んでいたのです(朝日新聞2008年5月3日付)。
日米欧の金融機関の損失は07年末で14兆円とされていましたが。ゴールドマンサックスの試算によれば、米金融機関だけで4600億ドル(約46兆円)に膨らむと予想されていたのです(日経新聞2008年月27日付)。これは、これまでに公表されていた米国金融機関の損失額の4倍近くにあたる金額であり、米金融機関の損失拡大はまだまだ続くと予想されていました。
ハイリスクのサブプライム関連証券が安全・有利な金融商品として普及したのは、米金融保障会社「モノライン」による保障があったからだと言われています。モノラインは、サブプライムローン関連証券や地方債などの金融商品の元利払いを保証する保険会社であり、金融保証だけに特化しているため「モノライン(単一事業)」と呼ばれているのです。地方債を出す自治体や証券商品を発行する金融機関から保証料を受け取り、債務不履行が生じた場合に元利払いを肩代わりすることになるのです。アンバックなどの大手4社が9割のシェアを占め、サブプライム関連の証券化商品の保証残高は95兆円に上っていました(毎日新聞2008年2月2日付)。
サブプライムローンの崩壊により元利払いの肩代わりが急増し、08年に入りモノラインの格付けが大幅に引き下げられたのです。モノラインの信用低下は、保証する金融商品の価格下落に拍車をかけ、金融機関などの損失をさらに膨らませる結果となったのです。
不十分な面があったものの、米国政府による迅速、大胆かつ矢継ぎ早な政策遂行により、サブプライムローン問題から派生した金融不安は一時的に平静を取り戻し、それにつれて、日本の株価も2008年3月ごろから回復基調に入っていました。しかしながら、サブプライムローンの焦げ付きが急増した2007年6月から約1年を経過した08年7月になって、米国金融不安(危機)はさらに厳しい第二ラウンドに突入することになっていくのです。
3)-1 米金融危機と世界経済の同時大不況の経緯
第一ラウンド:米大手金融機関のサブプライムローン関連巨額損失と米金融保障会社「モノライン」の経営不安
サブプライムローン破綻により引き起こされた米国金融危機による世界経済の同時不況は、全人類の生活を破壊する「米国発金融テロ」と呼ぶべきものではないでしょうか。
新自由主義経済においては、規制を撤廃し、自由な「市場メカニズム」を信頼することにより経済合理性が達成されることを期待しているのです。しかしながら、何の規制もなくなった市場原理主義は、「経済合理性」というよりは、むしろ「人間の欲望」のままに自由奔放な市場経済を形成させたのです。
当ブログで再三述べているように、新自由主義は市場原理(競争原理)により経済合理性が達成されるという理論に基づいており、その理論には正しいところもあるが、「人間の欲望には際限がない」という根本的な原理を欠いているところに最大の問題があるのです。それ故、目的とする「経済合理性」とは全くかけ離れた「強欲による金儲け主義」が蔓延し、カネさえ儲かれば何でもよいとするマネーゲームが主流となって多くの問題を発生させたのです。
その象徴的な事例の一つが、米国における信用力の低い(低所得者層を対象とした)個人向け高金利住宅融資「サブプライムローン」問題なのです。もともと、住宅購入など不可能な低所得者層に対して、住宅価格の右肩上がりの上昇を前提として高金利の住宅ローンを組んで無理やり住宅を購入させたのです。住宅価格の右肩上がりの上昇局面では、購入時よりも値上がりした時点で住宅を転売すれば低所得者層にも転売利益が入ってくるのです。
このような状況下、融資側による、①ローン金利は高い住宅の値上がりが続けば低金利のローンに借り換えられるから大丈夫、②返済に行き詰まっても住宅を転売すればお釣りがくる、などの宣伝に踊らされて、多くの低所得者層が住宅購入に走ったのです。
このような「住宅神話」を背景にサブプライムローンの融資残高は06年末で1.3兆ドル(約150兆円)と米住宅ローン全体の14%を占めるまでになったのです(朝日新聞2007年9月9日付)。
そこで、多くの低所得者層がサブプライムローンを組んで住宅を購入に走った結果、米国における住宅バブルが発生したのです。低所得者層でも住宅購入が可能なサブプライムローンシステムは、住宅価格の右肩上がりの上昇を前提にしているため、住宅価格の低迷や下落局面に入ると一斉に破綻する危険性があり、非常に不安定なものなのです。 まるで、日本における悪名高い「ネズミ講」そのものなのです。したがって、このサブプライムローンは高金利であるものの、投資銀行にとっては焦げ付くという大きなリスクを孕んでいたのです。
そこで、投資銀行はリスク回避の仕掛けとして、得体の知れない金融工学というツールを使って住宅ローン債権を証券化して、住宅ローン債権を数百から数千単位で束ね、それを小口の証券化商品に仕立て、種々の証券化商品の中に、あるいは優良な債権商品に組み込んで全世界の金融機関に販売したのです。
比較的金利面で有利な販売であった上に、米国格付け会社は「トリプルA]などの高格付けをサブプライム関連証券に与えたことにより、投資家をサブプライム関連証券に走らせる結果となったのです。その結果、95年に185億ドルだったサブプライム関連証券の発行額は、05~06年には5,000億ドル前後に急拡大したのです(JRI news release 金融レポートNo.2007-2, 2008年1月18日)。
米国金融機関によるサブプライムローンの証券化は非常に複雑なプロセスを経由しているため、サブプライムローン債権がどうのような証券化商品に組み込まれているのかという実態さえ掴めない状況に至ったのです。そのため、サブプライムローンとは全く関係のない優良な証券化商品さえ買い手が付かないという混乱が市場に広がると共に、そこに疑心暗鬼が重なり世界的規模の金融不安を招くことになったのです。
サブプライムローン問題で始まった欧米の金融不安の第一ラウンドは、ローンの焦げ付きに端を発して始まりました。06年後半以降、金利上昇などを背景に米国の住宅バブルが崩壊し、サブプライムローンの焦げ付きが急増し始めたのです。07年夏以降、格付けが一気に引き下げられたサブプライム関連証券の価格は暴落し、同証券を保有していた金融機関に巨額の損失を発生させたのです。
当時、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米議会下院予算委員会でサブプライムローンの総額は、約1兆ドルで、ローンの焦げ付きや住宅差し押さえが増えて損失額が最大になったとしても50% (5000億ドル、約50兆円)以下と述べていました。
この第一ラウンドにおける米大手金融機関の損失額は巨額に達しており、メリルリンチは、07年10~12月期決算でサブプライムローンに関連した評価損などが141億ドルに膨らみ、純損失額は約98億ドルと発表し、7~9月期の84億ドルを上回ったのです。08年4~6月期決算で約97億ドル(約1兆円)の損失が生じ、4四半期連続赤字で、08年6月までのサブプライム関連の年間損失額は、4兆円に達したのです(四国新聞2008年7月18日付)。
シティーグループも07年度10~12月期決算で222億ドルの損失を計上しました。また、08年4~6月期決算ではサブプライムローンの焦げ付き急増から約72億ドルの損失が生じた結果、純損益が24億9500万ドル(約2700億円)と3四半期連続で赤字になっていました(毎日新聞2008年1月15日付)。08年6月までのサブプライム関連の年間損失は、実に5兆3000億円に達したのです(AFP BBNews 2008年7月19日)。
このような巨大な損失に伴い、緊急の資本増強が必要なシティグループでは中東産油国からの資金援助を仰ぐ事態になったことは、記憶に新しいところです。
シティグループ、メリルリンチ、バンカメなど、米国金融10社のサブプライム関連損失額は2000億ドル(約21兆円)に達したのです。
さらに、事態を悪くしたのは、景気の落ち込みに伴い、サブプライムローンだけでなく、本来返済能力が高いと見られていた通常の住宅ローンにまで焦げ付きが広がっていったことです。当時、「通常の住宅ローンの損失は今後、現在の3倍に増える可能性がある」(JPモルガン・チェース)との見方もあり、金融機関の損失計上は当面続くという予想が多く、米国金融の先行きへの不安感が根強いものとなったのです(朝日新聞2008年7月20日付)。
欧州では、英金融大手HBOSは08年1~3月期に約5,900億円のサブプライム関連商品の評価損、独大手のドイツ銀行も08年1~3月期に約4,400億円の評価損を計上しました(朝日新聞2008年4月29日付)。それらに加え、スイス大手のUBSによる約2兆円、英大手のロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)による約1.2兆円という巨額の損失の計上が相次いだのです。
一方、日本国内のサブプライム関連損失額は、2008年3月期決算で最高額がみずほファイナンシャルグループの5,310億円、次いで野村ホールディングスの2,600億円、三井住友ファイナンシャルグループ1,230億円、農林中金の1,000億円、三菱UFJファイナンシャルグループの950億円と続き、トータル約1兆3,509億円程度であり、欧米と比べ損失額は軽微に済んでいたのです(朝日新聞2008年5月3日付)。
日米欧の金融機関の損失は07年末で14兆円とされていましたが。ゴールドマンサックスの試算によれば、米金融機関だけで4600億ドル(約46兆円)に膨らむと予想されていたのです(日経新聞2008年月27日付)。これは、これまでに公表されていた米国金融機関の損失額の4倍近くにあたる金額であり、米金融機関の損失拡大はまだまだ続くと予想されていました。
ハイリスクのサブプライム関連証券が安全・有利な金融商品として普及したのは、米金融保障会社「モノライン」による保障があったからだと言われています。モノラインは、サブプライムローン関連証券や地方債などの金融商品の元利払いを保証する保険会社であり、金融保証だけに特化しているため「モノライン(単一事業)」と呼ばれているのです。地方債を出す自治体や証券商品を発行する金融機関から保証料を受け取り、債務不履行が生じた場合に元利払いを肩代わりすることになるのです。アンバックなどの大手4社が9割のシェアを占め、サブプライム関連の証券化商品の保証残高は95兆円に上っていました(毎日新聞2008年2月2日付)。
サブプライムローンの崩壊により元利払いの肩代わりが急増し、08年に入りモノラインの格付けが大幅に引き下げられたのです。モノラインの信用低下は、保証する金融商品の価格下落に拍車をかけ、金融機関などの損失をさらに膨らませる結果となったのです。
不十分な面があったものの、米国政府による迅速、大胆かつ矢継ぎ早な政策遂行により、サブプライムローン問題から派生した金融不安は一時的に平静を取り戻し、それにつれて、日本の株価も2008年3月ごろから回復基調に入っていました。しかしながら、サブプライムローンの焦げ付きが急増した2007年6月から約1年を経過した08年7月になって、米国金融不安(危機)はさらに厳しい第二ラウンドに突入することになっていくのです。
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