2009/10/26
4. 小泉構造改革(新自由主義導入)による製造業の弱体化 -13) 研究者・技術者からの大収奪
日本経済の70%は金融・保険や流通業などの第三次産業が占めているが、この金融・サービス業の生産性は先進国の中でも極めて低く、日本経済の最大の弱点なのです。しかしながら、日本経済の20%程度を占める製造業は、世界一の技術力および競争力(生産性)を有し、これまで外貨を稼ぎ、日本経済を牽引しながら日本を世界第二の経済大国に導いたのです。
これを可能にしたのは、大企業だけでなく、製造業の大半を占める中小企業の製造現場における優秀な労働者による技術改善やQC活動に加え、研究開発部門の研究者や技術者によるイノーベーティブな新技術や新製品開発によって達成されたと言っても過言ではありません。
しかしながら、日本企業における画期的な技術や新製品開発に貢献した研究者・技術者への報償や待遇は決してよいと言えるものではありません。
通常、企業に膨大な利益をもたらす画期的な技術や新製品を開発した研究者や技術者による発明(知的財産権)の企業への権利の譲渡に際して、一般的に特許出願あるいは登録報奨金として、1件当たり1 ~5万円程度支給されているだけなのです。
最近、企業研究者や技術者らによる発明・特許の実用化における対価を求める訴訟が頻発しています。 特に有名なのは、中村修一氏(現カルフォルニア大学教授、元日亜化学研究者)による青色ダイオード発明の報酬を求める訴訟であり、この種の訴訟の中で最も高額で決着しました。
米国ではしばしば、企業の研究者は優れた発明をすると、別の企業にもっと高い給料で引き抜かれ、報酬も研究の成果に応じて契約などで決まるのです。さらに、画期的な成果が学会などで発表されると、たちまちベンチャーキャピタリストから声がかかり、日本円で数十億円単位の研究資金が集まる環境にあるのです。
中村氏は知人の米国の学者から「こんな大発明をしたのだから、億万長者になってさぞかし裕福な暮らしを送っているのだろう」と聞かれた時、日本における研究者の実情を説明し、大手の企業でも研究員が新製品を開発しても、せいぜい臨時ボーナスや特別手当として100万円ほど出る程度なのであり、中小企業の研究者である自分自身に関しても年収としてみれば、大差がないと答えたそうです。この話を聞いた米国学者は驚いて「それではまるでスレイブ(奴隷)と同じではないか」と言ったそうです。それ以来、中村氏に「スレイブ・ナカムラ」という変な仇名がついてしまったとのことです(中村修二著 「考える力、やり抜く力、私の方法」三笠書房)。
このように「スレイブ・ナカムラ」という仇名は、日本企業が革新的な発明をした研究者や技術者に対して相応した対価を与えず、如何に大収奪を行っていたかを物語っているのではないでしょうか。
一方、日本では生涯同じ会社に勤め、「何事も会社第一」の風土があり、訴訟を起こすと批判される空気が残っています。しかし、この青色ダイオード訴訟以降、味の素(人工甘味料アスパルチームの発明報酬訴訟)や日立製作所などにおいて、退職後に発明者らによる同様な訴訟が相次ぎ、発明の対価をめぐって多くの日本企業が真剣に考えざるを得ない状況に追いつめられています。三菱化学にように、最高2億5千万円の報酬を研究チームに与えることを決めた会社もあります(Bioベンチャー2002/12/27 第30回 研究をめぐる「報酬」について)。
新自由主義によれば、賃金や報酬は「市場メカニズム」で自由に決まるはずであり、たとえばプロ野球選手、芸能タレント、歌手や作家などは、完全な自由競争の下で報酬が決まる職業です。例えば、プロ野球では市場ニーズが高い一軍の一流選手では年収数億円であるのに対して、そうでない二軍の選手では年収400 ~600万円程度で、100倍以上の報酬格差があるのです。これが新自由主義における市場原理の持つ残酷な結果なのです。
それにもかかわらず、社会的ニーズの高い発明をし、この革新的なイノベーションにより企業や社会に多大な貢献をした(膨大な利益をもたらした)研究者・技術者に対する報酬は、市場原理主義では決まらず、企業により搾取されているのです。すなわち、日本における新自由主義というのは、経営者など「強者」みずからに都合のよい場合には市場原理主義を適用し、不都合な時には頬かむりするご都合主義、ペテン、あるいは集団的詐欺以外のなにものでもないのです。
青色ダイオードの開発に成功した中村修二氏は、その発明の対価に対する東京地裁での係争に勝訴(報償額約200億円)したとき、記者会見で日本の研究者や技術者が初めてプロ野球のイチロー並みの報酬を得たことになり、研究者・技術者の地位向上に役立ったと述べています。このことは、これまで絶え間ない技術革新(イノベーション)により世界に冠たる製造業を担ってきた研究者・技術者は本来なら一流タレントや一流野球選手のような報酬を得て当然であるが、いかに企業に搾取されてきたかを物語っているのではないでしょうか。
小泉構造改革は骨太方針06で明記されているように米国のような金融立国を目指しているのです。米国のようなマネー経済においては、実態経済の製造業が軽視されるので、企業による研究者・技術者からの搾取はますます厳しくなるとともに、経済社会への貢献に相応した待遇は与えられることなく、その果実は金融経済を担う人達(文科系)に搾取されていく構図になっているのです。
このように新自由主義経済が進展する中にあっては、理科系を選択するメリットはほとんどなく、理科系離れが起こるのは当然のことであり、将来の日本の製造業が衰退していく運命にあるのです。
米国においてでさえ、画期的な発明により世界経済に貢献してきたトップクラスの研究者や技術者に対する報酬は日本に比べて遥かに高額であるが、それでも銀行・証券会社・投資銀行などの役員や社員の高額な報酬に比べて桁数が違うくらい低いのです。この天井知らずの高額な報酬が一部の強欲な人達によるハイリスク・ハイリターン指向を加速させ、リスク管理を不可能にさせた結果、米国金融危機が発生したのです。
米国の金融危機だけでなく、実態経済を代表する自動車産業の疲弊と衰退をみれば、小泉構造改革(新自由主義導入)が目指す金融立国における日本の製造業の行く末はおのずから明らかなことではないでしょうか。
これを可能にしたのは、大企業だけでなく、製造業の大半を占める中小企業の製造現場における優秀な労働者による技術改善やQC活動に加え、研究開発部門の研究者や技術者によるイノーベーティブな新技術や新製品開発によって達成されたと言っても過言ではありません。
しかしながら、日本企業における画期的な技術や新製品開発に貢献した研究者・技術者への報償や待遇は決してよいと言えるものではありません。
通常、企業に膨大な利益をもたらす画期的な技術や新製品を開発した研究者や技術者による発明(知的財産権)の企業への権利の譲渡に際して、一般的に特許出願あるいは登録報奨金として、1件当たり1 ~5万円程度支給されているだけなのです。
最近、企業研究者や技術者らによる発明・特許の実用化における対価を求める訴訟が頻発しています。 特に有名なのは、中村修一氏(現カルフォルニア大学教授、元日亜化学研究者)による青色ダイオード発明の報酬を求める訴訟であり、この種の訴訟の中で最も高額で決着しました。
米国ではしばしば、企業の研究者は優れた発明をすると、別の企業にもっと高い給料で引き抜かれ、報酬も研究の成果に応じて契約などで決まるのです。さらに、画期的な成果が学会などで発表されると、たちまちベンチャーキャピタリストから声がかかり、日本円で数十億円単位の研究資金が集まる環境にあるのです。
中村氏は知人の米国の学者から「こんな大発明をしたのだから、億万長者になってさぞかし裕福な暮らしを送っているのだろう」と聞かれた時、日本における研究者の実情を説明し、大手の企業でも研究員が新製品を開発しても、せいぜい臨時ボーナスや特別手当として100万円ほど出る程度なのであり、中小企業の研究者である自分自身に関しても年収としてみれば、大差がないと答えたそうです。この話を聞いた米国学者は驚いて「それではまるでスレイブ(奴隷)と同じではないか」と言ったそうです。それ以来、中村氏に「スレイブ・ナカムラ」という変な仇名がついてしまったとのことです(中村修二著 「考える力、やり抜く力、私の方法」三笠書房)。
このように「スレイブ・ナカムラ」という仇名は、日本企業が革新的な発明をした研究者や技術者に対して相応した対価を与えず、如何に大収奪を行っていたかを物語っているのではないでしょうか。
一方、日本では生涯同じ会社に勤め、「何事も会社第一」の風土があり、訴訟を起こすと批判される空気が残っています。しかし、この青色ダイオード訴訟以降、味の素(人工甘味料アスパルチームの発明報酬訴訟)や日立製作所などにおいて、退職後に発明者らによる同様な訴訟が相次ぎ、発明の対価をめぐって多くの日本企業が真剣に考えざるを得ない状況に追いつめられています。三菱化学にように、最高2億5千万円の報酬を研究チームに与えることを決めた会社もあります(Bioベンチャー2002/12/27 第30回 研究をめぐる「報酬」について)。
新自由主義によれば、賃金や報酬は「市場メカニズム」で自由に決まるはずであり、たとえばプロ野球選手、芸能タレント、歌手や作家などは、完全な自由競争の下で報酬が決まる職業です。例えば、プロ野球では市場ニーズが高い一軍の一流選手では年収数億円であるのに対して、そうでない二軍の選手では年収400 ~600万円程度で、100倍以上の報酬格差があるのです。これが新自由主義における市場原理の持つ残酷な結果なのです。
それにもかかわらず、社会的ニーズの高い発明をし、この革新的なイノベーションにより企業や社会に多大な貢献をした(膨大な利益をもたらした)研究者・技術者に対する報酬は、市場原理主義では決まらず、企業により搾取されているのです。すなわち、日本における新自由主義というのは、経営者など「強者」みずからに都合のよい場合には市場原理主義を適用し、不都合な時には頬かむりするご都合主義、ペテン、あるいは集団的詐欺以外のなにものでもないのです。
青色ダイオードの開発に成功した中村修二氏は、その発明の対価に対する東京地裁での係争に勝訴(報償額約200億円)したとき、記者会見で日本の研究者や技術者が初めてプロ野球のイチロー並みの報酬を得たことになり、研究者・技術者の地位向上に役立ったと述べています。このことは、これまで絶え間ない技術革新(イノベーション)により世界に冠たる製造業を担ってきた研究者・技術者は本来なら一流タレントや一流野球選手のような報酬を得て当然であるが、いかに企業に搾取されてきたかを物語っているのではないでしょうか。
小泉構造改革は骨太方針06で明記されているように米国のような金融立国を目指しているのです。米国のようなマネー経済においては、実態経済の製造業が軽視されるので、企業による研究者・技術者からの搾取はますます厳しくなるとともに、経済社会への貢献に相応した待遇は与えられることなく、その果実は金融経済を担う人達(文科系)に搾取されていく構図になっているのです。
このように新自由主義経済が進展する中にあっては、理科系を選択するメリットはほとんどなく、理科系離れが起こるのは当然のことであり、将来の日本の製造業が衰退していく運命にあるのです。
米国においてでさえ、画期的な発明により世界経済に貢献してきたトップクラスの研究者や技術者に対する報酬は日本に比べて遥かに高額であるが、それでも銀行・証券会社・投資銀行などの役員や社員の高額な報酬に比べて桁数が違うくらい低いのです。この天井知らずの高額な報酬が一部の強欲な人達によるハイリスク・ハイリターン指向を加速させ、リスク管理を不可能にさせた結果、米国金融危機が発生したのです。
米国の金融危機だけでなく、実態経済を代表する自動車産業の疲弊と衰退をみれば、小泉構造改革(新自由主義導入)が目指す金融立国における日本の製造業の行く末はおのずから明らかなことではないでしょうか。
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