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2009/09/16

4. 小泉構造改革(新自由主義導入)による製造業の弱体化 -8) コアコンピタンスの弱体化

製造業は需要変動への対応とコスト競争力のために人件費の調節弁として派遣社員や請負労働者を利用してきました。これらの導入により、正社員はより高度な仕事に専念できるという見方がある半面、派遣労働者や請負労働者は短期であり流動性も高く、正社員は彼らの教育訓練や管理に追われて本来の業務ができないという指摘もあります。実態は後者の方が正しいようです。

製造現場では人件費コスト削減のために、技能や知識も豊富であるが、高給取りのために中高年のベテラン正社員がリストラの対象にされました。リストラに伴い、大量の派遣社員や請負労働者が製造現場に導入されたが、これらリストラ社員を派遣労働者や請負労働者で代替することは困難であることは明らかです。

これらベテラン正社員は、企業に必須の重要な技術であるコアー技術を発展、維持および継承にかかわってきた人たちが多いのです。しかしながら、雇用が短期で、かつ流動性が高い派遣社員や請負労働者にこれらコアー技術を教え、継承させることは、経済上、企業機密上および能力上からも不可能であることは当然のことです。そこで、いきおい、残った数少ない正社員がコアー技術の発展、維持および継承を行わなければならない状況にあるのです。さらに、大きな問題としては、リストラされ、コアー技術を継承してきたベテラン社員らは、中国や韓国の企業に採用され、それらの企業に日本の優秀なコアー技術を移転したとされていることです。

リストラに生き残った数少ない正社員は日常業務に追われるとともに、派遣社員や請負労働者のOJTによる技術教育訓練などを行わなければならず、人的、時間的余裕がないのが実情なのです。このことは、現在マスメディアで取り上げられ、多発している正社員の長時間労働、サービス残業、過重労働による過労死や精神障害の多発などにより実証されているところです。

このような苛酷な労働環境にあって、数少ない正社員が企業にとって必須のコアー技術やその周辺技術の開発・維持および継承を充分に行えるとは言い難いのではないでしょうか。このような状態は、製造現場や研究現場の経験がある筆者には容易に理解できるところです。

企業にとってのコアー技術およびその維持・発展と継承、さらに周辺技術の開発と発展は、競合他社を圧倒する強み事業分野(コアコンピタンス)の拡大と企業成長に必須であり、極めて重要なのです。それにもかかわらず、資本家(株主)の強い要求に基づいて、リストラや派遣労働者の急増による人件費コストの削減という目先の利潤(短期的利潤)の追求に走ることは、企業の長期的な成長の機会を逸するという危険を冒していると言わざるを得ません。

このように新自由主義は、徹底した市場原理主義によるコストダウンにより短期的には大きな利潤をもたらすが、長期的観点に立てば、製造業の弱体化や衰退をもたらすことは必然なのです。新自由主義先進国である米国の製造業の代表格である自動車産業のビッグスリーが、倒産、あるいは倒産寸前という惨憺たる状態にあるのは新自由主義経済の当然の帰結なのです。

日本の工業製品の高品質および世界的な競争力(生産性)は、日本の製造業における現場労働者の弛まぬQCサークル活動、改善活動だけでなく、コアー技術の継承・発展とコアー技術やその周辺技術を駆使した圧倒的な強みのあるコアコンピタンスにより支えられているのです。企業との一体感の薄い派遣労働者や請け負労働者に、これらを期待するのは困難であることは明白なことです。
小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 | Comments(0) | Trackback(0)
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