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2009/08/29

4. 小泉構造改革(新自由主義導入)による製造業の弱体化 -5) 非正規社員の急増による現場技術力の低下、技術継承の阻害および不良品の増加とコストアップ

日本経済の強みは、世界で最も高い技術力と競争力(生産性)を有する製造業を持っていることであることを述べました。しかしながら、製造業への派遣社員の解禁と非正規社員の急増は、製造現場におけるチームワークによるQC活動や技術の継承を阻害し、この強い日本の製造業を弱体化させる危険性があるのです。
小泉構造改革による労働者派遣法の製造業への規制緩和により、製造業の現場では派遣社員が急増し、それとほぼ時を同じくして団塊の世代の定年退職が始まりました。これが、技術の継承問題など、2007年問題といわれていた所以です。ベテラン技術者の減少に加えて、この非正規労働者の急増が、「ものづくり」の現場におけるチームワークによるQC活動や技術の継承を困難な状況にしているのです。

技術・技能というものは目に見えない属人的なものが多いので、ベテラン技術者から新人に受け継がれなければ、それらの技術は消失していくのです。技術力の低下はすぐに目に見えては現れないため、これまでと同様に自社の技術は常に業界トップと自負している経営者が多いが、その技術力低下の影響は5~10年経過するとはっきり目に見えて現れてくるのです。その時点ではほとんど取り返しがつかない事態に陥っているのが通常なのです。

派遣社員などの非正規社員の急増は、製造現場における技術の継承に極めて深刻な影響を与えるのは必至です。超一流企業の製造現場でさえ、過去には考えられない製品品質に深刻な事態が起こっていることが、世界に向けて発表された大ニュース、「ソニー製リチウムイオン電池を搭載したノートパソコンの発火およびパナソニックや三洋電機製同電池を搭載した携帯電話の異常発熱などの問題」やクルマの大規模なリコールの多発などから伺うことができます。
これらの大きな原因としては、①派遣社員などの非正規社員の急増に伴う現場の「ひとづくり」が劣化していること、②派遣社員急増による現場活動の阻害、とくにチームワークで実施されるQC活動の阻害とそれに伴う改善力や品質管理能力の低下、③リストラや人手不足などにより正社員やベテラン技術者などにおける現場の余裕のなさから、正社員が過重労働状態にあり、日常業務に追われて派遣社員への技能・技術教育がうまくいっていないこと、および④過重労働環境のもと、正社員間による企業のコアー技術継承が十分に行われていない、などが考えられます。日本の製造業が置かれている現状は非常に厳しいと言わざるを得ないのではないでしょうか。
このまま放置しておくと、間違いなく、新自由主義先進国米国のように、日本から強い製造業が消失することになるでしょう。

実際に、1990年初頭のバブル崩壊後、グローバル競争が激化する中で、企業は人件費コスト削減を推し進めており、厚生労働省の「賃金労働時間等総合調査」および「就労条件総合調査」によれば、「企業は人なり」といいながら、労働費用に占める人材教育訓練費の割合は、1991年度は0.36%であったが、急激に低下し、1995年度から小泉構造改革の真っただ中にあった2002年度にかけて0.28%程度に推移しているのです。
経済のグローバル化と新自由主義の進展により、コストダウンの逆風が吹く中で、人材教育は新人研修などを除けば、将来を背負う幹部候補生など一部の社員に限定された選抜型にならざるを得ない状況に置かれているのです。このことは、「ものづくり」の基盤を支える現場労働者への教育訓練投資、すなわち「ひとづくり」投資が減少していることを意味し、製造業の未来を危うくする非常に危険な状況にあるということは間違いのないところです。

厚生労働省の「生涯キャリア支援と企業のあり方に関する研究会」の報告によれば、技術継承にかかわる問題の一つに、企業規模の如何を問わず、非正規労働者の増加の問題があることを指摘しています。
多くの製造現場では、正規労働者以外に、パート、派遣労働者、請負労働者(日系人を含む)などが混在しており、製品品質を保ちつつ、効率的に生産していくことが求められているのです。短期的に入れ替わる非正規労働者や外部労働者が急増する中で、「ものづくり」現場の技術・技能をどのように継承していくかが大きな課題として浮かび上がっています。
また、中小企業においては、少子化による若年世代を中心に人材確保難の状態がみられ、技術継承の受け手がなく、各地の中小企業で集積した貴重な技能・技術およびノウハウが失われかねない状況にあるのです。

今後のものづくり、製造業を持続・発展させるためには、人材育成および技術の継承をどこで行うかという問題があります。基本的には、必要な人材育成および技術の開発および継承は自前が原則であり、事実、技術継承に積極的に取り組んでいる先進企業が現れています。
地域の中小企業の人材育成には、大企業も参画する「産学連携製造中核人材育成事業」が期待されています。この事業とは、製造現場を有する産業界と教育ノウハウをもった大学などのコンソーシアムを構成して製造現場での中核人材を育成する実践的なカリキュラムの開発を行う事業であり、07年問題や産業技術の高度化・短サイクル化に対応する人材ニーズの高まりに端を発しているのです(中小の技術産学で育成、ー 「団塊」大量退職に備え ー、日経新聞2007年1月13日付)。国はこのような事業に対して資金支援を3年間実施することになっています。

どんな産業でもいえることであるが、特に製造業における問題点は現場にあり、優秀な経営者ほど、本社の事業本部長などから情報を取るよりも、現場に絶えず出向くことにより生きた情報を得て、経営方針などに生かしているのです。
製造業でもっとも大切な現場が忘れられ、経営トップは本社に居座り、現場から生きた情報を得なくなると、自社の現場の技術力、問題点を把握することができなくなります。自社の新技術や新製品開発が停滞し、これらの面で同業他社に遅れを取り始めるようになると、もはや取り返しのつかない事態に至っていることになるのです。
技術は目に見えない属人的なものが多くあり、技術の低下などはすぐに目に見えて現れて起こらないのです。筆者も研究現場でも経験したことであるが、現場では部下の教育訓練や技術・ノウハウの継承を躍起になっているのに、本社では現場を顧みず、無関係に転勤や配置転換命令を出すことが多く、技術の継承が阻害されることが度々ありました。

製造業への派遣労働者や請負労働者などの短期労働者が急増している現状において、品質を確保できる技術水準の確保と技術の継承が非常に困難なことは、製造現場を経験した者にとって非常によく理解できるところです。それだけに、このまま推移すると、これまで築いてきた「技術と品質の日本」という世界からの評価や信頼、また日本の強みである製造業がある日突然崩れさる危惧を覚えるのです。
このように、「ひとづくり」の軽視は、結果として「ものづくり」でシッペ返しを食らう羽目になるのです。やはり「ものづくり」や国是の「科学技術創造立国」の基本にあるのは、日本の唯一の資源である「ひと」にあることを再認識しなければなりません。
企業のみならず、日本社会は「ひとづくり」(人材育成)システムを根本的に再構築」し、そこに優先的に投資することが、持続可能な経済社会形成のために不可欠なことではないでしょうか。



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小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 | Comments(0) | Trackback(0)
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