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2009/04/28

小泉構造改革の総括と日本の進むべき道 ー規制資本主義の下、低炭素・循環型社会の構築ー

はじめに
小泉構造改革の本質は、米国新自由主義の日本への本格的な導入にあります。
新自由主義(Neoliberalism)とは、シカゴ学派のフリードマン(Milton Friedman)により提唱され、その理想とするところは規制のない自由主義経済であり、あらゆる市場への規制は排除されるべきとする自由放任主義というべきものです。
新自由主義は、小さな政府、すなわち公的サービスの切り捨て、官から民への規制緩和や情報公開、労働者保護の廃止(本質的には労働者というヒトの商品化)などを実施し、市場メカニズムを通して経済合理性を達成することを基本にしています。それゆえ、新自由主義は市場原理に基づいた競争経済社会の構築を目指すことから、市場原理主義とも呼ばれています。
新自由主義の行き先である弱肉強食社会においては、より優秀な勝ち組はますます強くなることにより、弱者である負け組全体の底上げが図られることを期待しているので、大きな政府による税や公的サービスによる富の再配分が否定されるのです。
米国や英国(現在の日本も含まれる)における新自由主義は、大きな政府による富の再配分を主張する欧州型経済、なかでも北欧諸国における社会民主主義(Democratic socialism)、あるいは規制資本主義とは対立するものです。
レーガノミックスに代表されるように、新自由主義の本家本元は米国です。最近、米国経済のみならず世界経済を揺るがしているサブプライムローン問題で明らかになったように、米国は少数のウオール街住民を勝ち組とし、大多数の貧困層を負け組とする弱肉強食社会を形成しているのです。

英国は「揺りかごから墓場まで」といわれるような高福祉国家を標榜していたが、高負担、非効率が災いして70年代には低成長と高失業率に悩まされる、いわゆる「英国病」に陥っていました。そこで、80年代に入り、サッチャー首相は、新自由主義を導入することにより小さな政府を構築するための構造改革を断行しました。
サッチャー政権は金融の規制緩和による外資の積極的な導入(市場原理に基づく競争促進、“金融ビッグバーン”)、あらゆる政府部門の民営化による小さな政府の構築と公的福祉サービスの切り捨てを行ったのです。このような市場原理の強化は、経済の低成長からの脱出、すなわち経済成長率が上がり、通貨が強くなり、そして失業率の低下をもたらしました。このように、市場原理に基づく構造改革は英国の経済社会に活気を取り戻させ、一見いいこと尽くめのように見えましたが、一方では経済社会に深刻な副作用を生じさせたのです。それは、格差拡大であり、また医療危機を始めとする深刻なセーフティネットの綻びでした。
構造改革により、勝ち組である大金持ちが現れたが、そのような人はごく少数で大多数は所得の大幅な減少を甘受しなければならなかったのです。所得の大幅な低下に加え、小さな政府による福祉の切り捨てがもたらされたのです。このように、新自由主義は、米国と同様に英国にも弱肉強食社会と格差社会を形成させたのです。
新自由主義がもたらす、このような悲惨な副作用は、新自由主義者が主張する「競争促進により勝者がより強くなることにより、負け組である弱者の底上げ(弱者への富の配分)が行われる」という論理に欺瞞があることを示しています。新自由主義における「強者から弱者への富の再配分」は人間の本性に対する理解不足に基づく論理であり、成り立ちえないことは、サブプライムローンの破綻により引き起こされた米国金融危機によりすでに明らかにされているところです。
人間の富に対する執着心や欲求は際限ないほど強欲であり、さらなる富の蓄積(金儲け)を求めてわき目も振らず邁進し、周りの弱者に対しては自己責任を押し付け、富の再配分どころか、これら大多数の弱者からいっそうの大収奪を繰り返すのです。このことは、米国で発生し、米国のみならず世界経済の同時不況を引き起こした弱者層(低所得者層)をターゲットとしたサブプライムローン問題で実証されているところです。それゆえ、新自由主義経済においては、一度弱者である貧困層に落ち込むと蟻地獄のごとく、一生這い上がることができないばかりではなく、いつ負け組に落ち込んでも不思議ではない不安定な社会が形成されるのです。
新自由主義社会では福祉の切り捨てに加え、弱者がマジョリティーを形成しているので、年金、医療保険などの社会保険の掛け金さえも支払うことが困難な経済状態に陥るケースが増大することになります。日本におけるこのような弱肉強食社会の推進は、無年金者、健康保険未加入者や生活保護世帯の激増などにより年金や医療保険制度の崩壊のみならず国家財政破綻を招き、持続性社会を崩壊させることは必至と考えられます。
新自由主義信奉者らが主張するように、新自由主義の日本への導入は経済に国際競争力をつけ、国民を幸せにするための有益な手段といえるのでしょうか。
上述したように、新自由主義は持続性社会の崩壊を招く危険性があるにもかかわらず、日本に新自由主義を導入した小泉・竹中らによる構造改革は依然として多くの勢力に支持されているのです。
マスメディアによる世論調査でも、福田前首相や麻生首相に代わる次期首相候補として期待される人物として、常に小泉元首相が最も高い人気を保持しています。なかでも、小泉構造改革の導入と推進に際して「改革なくして成長なし」、「改革に伴う痛みに耐えてほしい」などと、うまく騙され続けられ、どちらかというと「負け組」に陥っつたと見られる多くの国民層からも未だに大きな支持を集めいている現象は理解し難いところです。
米国に端を発した金融危機は世界の実体経済にも大きな影響を及ぼし、恐慌に近い世界同時不況を引き起こしています。日本の景気も08年末から急激な低下に見舞われ、製造業を中心に派遣社員の大量派遣切りが年度末にかけて起こっており社会問題化しています。このような事態に至った原因の究明なくしては、これらの問題の根本的な解決は困難であり、小手先の手当に終わらざるを得ません。
08年末から急激に起こっている派遣社員の大量派遣切りは、04年に小泉構造改革による労働者派遣法の行き過ぎた規制緩和によりもたらされたものです。当時からこのような労働者派遣法の大幅な規制緩和は、企業の人件費の調節弁として利用されるという意見が出されていたにもかかわらず、これらの意見に耳をかさずに導入されたのです。しかしながら、現在に至っても政府与党、野党のみならず、マスメディアは小泉構造改革の総括をほとんどしていなし、しょうとする姿勢すら示していないのが不思議でなりません。
そこで、このブログでは、小泉・竹中らにより日本に本格的に導入された新自由主義がもたらした種々の「負の遺産」、それらがもたらした経済社会システムの疲弊や崩壊について検証・総括し、これらを踏まえて今後の日本の進むべき道を展望したいと考えています。
日本の経済の強みは、圧倒的な技術革新力と国際競争力を有する製造業にあることは論を要しません。日本に導入された新自由主義が格差社会の拡大や医療危機などのセーフティネットの崩壊のみならず、日本の製造業をどのように変貌させ、弱体化させていくかについても、種々の面から検証したいと思います。

新自由主義経済を始めとするこれまでの経済は、開放系を前提とした経済学に基づいているものであるが、地球温暖化は地球という巨大で、しかも安定な環境システムといえども、本質的には閉鎖系であることを人類に警告しているのです。
産業革命以降の人類の経済活動により放出されたCO2などの温室効果ガスは大気中に蓄積されてきているのです。世界各地で何十年ぶりといわれる洪水や干ばつ、巨大なハリケーンやサイクロンの発生などの気候変動が起こっており、地球温暖化が大きな問題として取り上げられています。
これは、人類の経済活動による温室効果ガス排出量が巨大な地球環境システムによる自浄能力をすでにオーバーしていることを示しているのです。地球温暖化は、これまでの開放系に基づいた自由放任主義による経済活動はもはや成り立たないことを示しているのです。
そこで、このブログでは今後の日本の目指すべき道として、新自由主義と一日も早く決別し、規制資本主義の下、新エネルギーの開発による低炭素と水・資源のリサイクルを基盤とした循環型経済社会を構築すべきであることを種々のデータや情報に基づいて提言していきたいと思います。




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